2023年10月17日火曜日

【そよ風ペダル】劇的アイロニー

10/17 14:00-16:00 高槻城公園芸術文化劇場 中スタジオ3 担当:渡辺

引き続き、『留守』の稽古です。

物語後半、3人目の登場人物が入ってきて、それぞれの人物の持っている情報量に差があることで、微妙な腹の探り合いや、しれっと想いの告白がなされたりします。

登場人物にはそれぞれの事情がある。
が、お互いにはそれを全て汲み取れているわけではない。
ただ、お客さんだけは全体の事情を次第にわかってくる。
ややマニアックな話になりますが、登場人物は全てをわかっていないけど、観客はわかっている、この差を利用したドラマの構造を「劇的アイロニー」と呼びます。
(アイロニーは第一義には「皮肉」を意味するのではありません。)

さらに俳優は、当然事前にストーリーを知っていて、全員の事情をわかっています。ただ、演技をする際にはわかっていないふりをしなければならない。
これもアイロニーと呼ばれます(参考:福田恆存『人間・この劇的なるもの』)。

演劇は単に「文字通り」の情報のやり取りで進行するのではありません。
単純にストーリーのレベルでも、相手役から何かを問われて「知らないよ?」と答えるとき、それは「本当にそれについて知らない」ことを意味しない場合があります。
人間同士のコミュニケーションなので、内容がセンシティブであればあるほど、嘘をついたり隠したり仄めかしたり、いろんな細かいやりとりがありえます。

登場人物と観客のあいだの差、
登場人物と俳優のあいだの差、
登場人物同士のあいだの差、
さまざまにズレがあって、そこにドラマの効果が生まれる…のですが、そのためにはかなりの演技力が求められます。
余裕をもって演技に臨むために、まずはセリフを覚えるところから!