2022年7月6日水曜日

【千年団】悪意のない悪について

7/5 15:00-17:00 高槻現代劇場305 担当:渡辺健一郎

今回から、チェーホフ『愚図』。気持ち良いとは決して言えない、もやもやが残るタイプの短編です。
主要登場人物は、主人、客、家庭教師の3人の女性。
あれやこれやと言いがかりをつけて、家庭教師に支払う給金をほんの少しで抑えようとする主人。
この言いがかりシーンが芝居全体の8割ほどを占めます。
観客は、彼女に腹を立てるでしょう。「何てひどい人なんだ」!と。
もちろん、家庭教師も相当なストレスを感じているはずです。

ところが主人には目論見がありました。言い負かされるような愚図ではダメ、難癖をつけられてもしっかりと言い返すようでなくては。
難癖は全て演技。給金は全額払うから、今後はしゃんとしなさいね––という教育効果を狙っていた、ということが最後に明かされます。

教育のためなら、相手にどんな負荷をかけても良いのか?
相手が「悪人」なら話はだいぶ単純なのですが、主人には悪意がないだけに、
いっそうのわだかまりが生じます。
世界にうずまく様々な不快は、悪意によってのみ生じるのではない…みたいなことを身につまされる作品でした。

この様な無自覚な悪辣さを演じるというのは、かなり難易度が高そう。
故にやりがいもありそうですが…
しばらくこの戯曲で遊ぶそうなので、俳優がどう演じ変えていくのか、楽しみです。